Love and Realism
someoneでありIでもある者の宣言。あるいは、、、
             text by AMEPHONE(音楽家)

教会という装置のイマージュについて。神の超越性からそれを具現する唯一の人としての司祭の存在、そして聴衆〔信徒達〕まで。垂直に貫かれたヒエラルキー。やがて救済の原理がこれを相殺する。つまり上からの抑圧的なエネルギーは行き場を失い四方上下の区別なく空間内に炸裂する。さて、この祝祭の場にふ さわしい音色とは何であろうか。言うまでもなくオルガンのそれである。巨大な音塊は充満し、世俗的な関係性のコードを毟り取っていく。我々はしばしば、 オーディオのこちら側で、この収奪の装置〔としての祝祭空間)が始動するのを聞く。あるいは、皆殺しの現場を、目撃する。

ではピアノではどうか。ピアノ、ピアノ..

爆発する寸前、聖なる抑圧の力の飽和点において〔あるいは減衰していく殺しの余韻の中で〕、果たしてピアノが、一音小さく鳴る。全てはその動きを止める。フリーズする。緊張が起こる。弾き手は視線にさらされる、そしてどうやら震えている。それは無理もないことと言える。視線が投げかけられる。おまえは誰な のだ。誰?弾き手はそう独り言ちる。空間はやがて湿り気を帯びはじめ、柔らかな肉体の侵入を受け入れるであろう。ピアノはいつの間にか四拍子を刻み始め、 リニアな時間軸が設定される。手の動き。我々の視線。そして最後の問い。おまえは誰なのだ。その時、高らかな歌声が立ちあがり、これに答える。

女だ…

とある夏の日の午後、私は、自室でオーディオ装置を調整している。位相を合わせ、焦点深度を探る。クローズアップ。仔細に検討してみること。彼女の鼻筋から唇へ。あるいは首の描くラインをたどり、唇。無数の襞が接触し、摩擦が起こる。振動が漏れだす。言葉のフォルムを確認する、あそこに一つ、ここにもう一 つ。それらは線的な連なりを示さぬまま、したがって旋律化されることなく、とぎれとぎれに漏れ出でる。砕かれた石膏の破片を、拾い集める手と手。仔細に検 討してみること。

──Alphabet. 読みえぬ外国語。それはただ発音される。意味へ至る以前に、震える唇。併置された日本語は翻訳として機能しているであろうか。いやむしろ、常にその対象か らの驚異にさらされているかにみえる。来てみろ、私を読めるか、と。並べ置かれながら、寄り添うことのない、二つの言語──

遠くで、歌声があがる。
顔を上げる。不意をつかれ、手を放す。今、目の前を横切って行く、歌。

“Even if someone is told that I do not have the qualification for.../ 何する資格が無いと言われても…”

不気味なほど軽やかに、シンコぺートしていくメロディー。その進行の快調な様子にむしろ戦慄する。何がおきているのか。何処で歌われ何を告げているのか。someoneでありIでもある者の宣言。あるいは、私はそのようなものではない、ということを証明し続けるためにだけ、幾度でも、歌いなおされる歌。最 早、手がかりも残さず、それは行った。そして再び、ピアノ。弾き手はうつむき、待機している。一音鳴らし、次の一音で、また新たな跳躍…

繰り返し、場所を持たぬ歌

ある曲の、冒頭にフルートを聞く。ピアノを読み解くことで始まり、やがてこの解釈から離れ、即興。ピアノは独自にハーモニーを模索し、一つのコードに戻る。あらかじめ定められていた調とは、

 “絡み合う蔓の向く先は…”

ピアノのコード、言葉、やがてサックスが入り、展開し、リットして、基音に戻り、

そして奇跡が歌われる。
それは外国語のための発音で歌われた母国語による文。震える唇が発する輝く言葉それ自体。
一息で、ついに語り得た…

以後も音楽は続く。続けて奏でられる。ピアノ、植物、言葉、ラフマニノフ、教会、チェロ、サックス…重なり合うイマージュの狭間に、おぼろげに浮かび上がる女の像がある。あれは誰か。否、問うことなく先へ進め、聴け。
"Love and Realism"
1. Intro "round 'n' round"
2. To be sure, it exists
3. Foolish woman
4. No
5. Answer
6. Happy
7. Like a bud
8. "Love and Dream", Sergei
9. Lier's lie is not lie
初回特殊仕様パッケージ
AnN-shitsu Records
2006.3.31 Release
ANST-001 (dear Air)
Artwork : Yuichi Higuchi / Photograph : Chie Tatsumi
piano & voice : Mujika Easel / Photograph : Yamada
"Love and Realism" Japan 2006
The tunes of ‘Love and Realism’ are mainly consisted of piano and voice of Mujika Easel, mixed with sax, upright bass, mixing board, and table-top guitar. The classical-ambient-improvisational tone of the songs, and her vibrato filled with love and sacredness directly echo into souls of people beyond ages.

The churchly atmosphere of the acoustic space and a privately recorded whispering were directed with preeminent auditory sense into this masterpiece, that was the concentration of the whole works of Mujika Easel.
Copyright (c) 2010 Mujika Easel All rights reserved.